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シンポジウム「教育基本法『改正』推進勢力の分析と重要論点の検証」
2006.8.12 |
第4セッション
学力テスト体制と教育における格差
--東京都の事例に基づいて法案16条・17条を批判する--
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| <進藤兵(名古屋大学)> |
改正案16条・17条の批判を中心にお話しいたします。
問題点は大きく二つ分けてふたつ。一つは、政府案の16条・17条によって、教育という営みに対する、行政・政治の介入が抜本的に強化されるということです。現行法の10条では、「教育は」という文章と、「教育行政は」という文章は、別に置かれています。そして、「教育行政」については、あくまで条件の整備確立に限定し、「教育」の内容については、教育の現場で自主的・自律的に営むということになっているのです。一方、政府案16条では、「教育」と「教育行政」が一体化されています。そして、「教育」内容は、法律に基づいて定められることとなっているのです。
16条の第2項では、内閣による総合的な教育施策が策定されること、第3項では、地方公共団体による総合的な教育行政の政策がつくられていくということになっています。こういう形で、国つまり内閣、文部科学省、都道府県・市町村教育委員会という、縦の行政的な介入ルートが強化されるのです。
政府案の17条、教育振興基本計画とよばれるものですが、これは現行法にはないもので、教育基本法改正の目玉の一つとなっています。1項では、政府が教育振興基本計画を策定すること、2項では、地方公共団体は国の計画を斟酌して地方なりの教育基本計画を定めることになっています。ここでも、内閣の定める教育振興計画に基づく、地方の教育基本計画という、上からの教育介入のルートが、はっきり示されています。
具体的には、この4月に、足立区において足立区教育基本計画というのが策定されておりまして、この内容について、この後お話しいただきます。
東京都についていいますと、2004年に、東京都教育ビジョンというのがつくられています。5年前には、東京都教育委員会の目標から「憲法」「教育基本法」「子どもの権利条約」という言葉が削除されています。政府案において現れている「憲法と教育の切断」ということが、東京都ではすでに行われているのです。
政府案は、縦の流れで、政府からの教育介入が強まるということですが、民主党案についてもいろいろな問題があります。まず、「不当な支配に服することなく」という文言が削除されています。その代わり、「教育行政は、民主的な運営を旨として行わなければならない」とされています。この場合の民主的運営とは、多数決原理ということであり、当選した首長や、議会の多数派の主張を採用するということが、民主党案の方が露骨に出てきているわけです。また、民主党案は、自治体の教育行政は、首長が行わなければならないとか、教育行政に関する民主的な組織を整備するとされています。これらは、明らかに教育委員会制度を破壊することを目指すものであり、首長直属の教育審議会をつくり、そこで教育行政を決めていくということです。つまり、民主党案では、教育に対する政治介入が強く打ち出されています。東京の石原都政はまさにこのようになっており、教育委員会は事実上知事の諮問機関のような形になっています。その下で「教育改革」が行われているのです。
●政治・行政の教育への介入の目標と結果
目標については、私は三つあると考えています。
@道徳をはじめとする権威主義教育をつくること
A日の丸・君が代に現れているような、軍事大国を支える大国主義教育を行うこと。単純な戦前のような教育ではなく、アメリカと一緒になって戦争を行える大国主義教育ということです。
B新自由主義教育です。私は、新自由主義教育のポイントは四つあると思います。一つは、日本の国際競争力を強化できるような人材、技術革新を担えるような人材育成のための教育です。2番目は、アメリカをモデルにした格差社会をつくるための教育です。3番目は、教育予算の削減・抑制です。ただし、国際競争に役立つような「新しい」教育については、重点的に投資が行われます。4番目は、市場競争原理、企業経営原理というものを教育現場に持ち込んできます。
具体的に政府案に基づいていいますと、政府案2条の中で、道徳以外でも第2項のところで、「能力を伸ばす」とありますし、第4条では、「能力に応じた教育」とあります。いわゆる能力主義が取り入れられています。また、義務教育9年という年限をはずして、幼児から英才教育をやっていくという視点もあります。16条では、「教育水準の維持、向上をはかる」ということで、経済面での国際競争力の強化をはかることと連動しています。
一つ強調しておきたいのは、このような新自由主義改革というのは、経済団体の要求にしたがって、経済財政諮問会議等がつくっていくということですが、文部科学省も、一度は抵抗しつつも結局は敗れ、現在では文部科学省自体が新自由主義改革を受け入れ、義務教育費の国庫負担の削減などを行っているということです。経済界→内閣→文部科学省という流れで政策がつくられているということです。教育関係者の中で、教育予算や、財界に対する文部科学省の立場を守るためには教育基本法改正もやむを得ないという意見もあるようですが、すでに、財界・内閣主導で政策決定が行われることは確立しているのです。教育予算の縮減・重点配分という政策形成もすでに始まっています。ここで法改正が行われれば、そのような流れがもっとおおっぴらになされることになります。
このように、教育に対する介入が強化されることにより何がもたらされるかについて、二つだけ取り上げます。
一つは、「競争の教育」が行われるということです。また、学校の運営も民間企業型になっていきます。具体的には、足立区では、全都一斉に行われる学力テストに対応して、「学力テスト対策」というのが教育行政として行われていて、自治体の中の学校同士の競争、学校の中の先生同士・クラス同士・子ども同士の競争の教育というのが入ってきています。それを、民間企業型のトップダウンの学校運営で進めていく体制が、足立区ではすでに出てきています。
二つめとしては教育格差の拡大の問題があります。都内でも、貧困地域では、学力が低く出る傾向があります。一斉学力テストはフィンランドなどでも行われていますが、そこでは、学力が低い原因を分析し、学力格差を縮小するための資料として用いられています。一方東京では、そのような用いられ方は一切していません。テストを行い一部のエリートを選り分けることが目的となっているのです。
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足立区についての具体的なお話
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| <橋本敏明 (足立区教組)> |
30年ほど教員をしていましたが、4年前から不登校の問題に取り組んでいます。今、60人ほどの子どもを担当しています。今日話を聞いていて、足立で行われていることは、第1セッションから第4セッション全てに関連しているという印象を持ちました。
はじめに、改正法案16条・17条を先取りした「足立区教育基本計画」についてお話しします。
同計画の目次をみてみます。足立区の目指す教育の基本方向として、「生涯教育の基盤作り」、基本軸として、「人間力の基盤を培う」、人間力向上の施策として、教師力の向上、内発型自立型学校経営の確立と「学校力」の向上で教育の質を高めるなどとされています。教育条件整備の中では、幼児教育、小学・中学・高校教育、家庭教育、民間教育にも言及され、学力向上にむけた土曜授業、人事権の移管、学校運営の効率化が盛り込まれています。人作りとして、家庭、地域の教育力を高めるという形で地域の人材の掘り起こしなどが盛り込まれています。このような施策を実行するための学習ボランティア、学習支援サービス等の体制整備も盛り込まれています。
ここで、足立区教育基本計画と教育基本法改正案を比較してみます。
まず、生涯学習の理念が盛り込まれている点が共通しています。また、改正案における「義務教育と人間力」との関係についても、教育基本計画との類似点があります。それから、「学校教育」のところでも、規範意識や社会性の育成といった点が共通しています。家庭教育・幼児教育・地域住民等の連携協力についても、共通しています。
また、足立区教育委員会の独立性についても、トップダウン型の意思決定が徹底されていて、ほぼ独立性を失っています。区長と学校現場を直結したような形になっているのです。現行法10条の理念はほぼ破壊されているといえます。
教育基本計画には、「主要施策については、数値目標を掲げ、目標実現へ向けての行程表をつくり、年度末に達成状況の確認を行う」とありますが、これも、行政が学校教育を支配する仕組みを作り上げているといえます。学力テスト・学力向上をてこにして、教育内容にまで介入しているのです。同時に、区も学校も経営体としてとらえ、地域・家庭・幼稚園・保育園・小学校・中学校・高校のネットワークを構築し、地域支配をも視野に入れているのです。
足立区の学校には「開かれた学校協議会」というのがありますが、これも、上から押さえつけて、学校評価等を行いながら、教員を管理するという仕組みを、地域レベルで設けているのです。
学力テストの実施について足立区は、教育産業に丸投げをしています。ある小学校の校長も突然教育産業出身の民間人に代えられました。学校を教育産業の実験の場にしたり、子どもたちの個人情報が教育産業に流出したりしているという懸念もあります。
教育基本法の目的は「人格の完成」にありますが、それをねじ曲げて「人間力の向上」にして、それが一人歩きしているような状況です。
●足立区教育基本計画に沿っての説明
はじめに、「教育基本計画の策定にあたって」という、教育長名の文書がありますが、その中には「教育の『総合計画』の策定が求められたところでもあります」と書かれています。この部分は教育基本法改正案とも重なるところですが、足立区教育基本計画は、平成16年度から策定されています。すなわち、教育基本法改正の先取りとして計画的に行われている印象を受けます。
そして、「計画策定の前提」としては、数値目標の策定、達成状況の確認などが書かれています。
「足立区が目指す教育の基本的な方向」としては、「人間力の育成」が掲げられています。そしてここでの「人間力の向上」とは、「個人・社会の構成員としての人間力の育成」にあるとされています。つまり、教育基本法の目的=「人間力の育成」と定義しているのです。ここから後は「人間力」の繰り返しです。
「教育改革への取り組み」としては、学力向上、家庭地域の教育力の向上があげられ、「外発型」から「内発型」への教育改革を目指しています。
また、「人間力向上」を目指す施策として、「多様な事業主体との協働」が掲げられています。ここは、地域・教育産業との提携を目指すということです。その他にも、「校長のリーダーシップと副校長、主幹との連携」、「学力テストの継続」「教員研修の充実」「授業力リーダーの養成」などがあり、東京都との連携をうかがわせるものとなっています。また、学校評価、予算の傾斜配分なども盛り込まれています。
もう一つ重要な点に、「学校支援委員会」の設立があげられます。都の団体とは別につくるということです。そこが、学校評価の主体となる動きが強まると予想されます。
また、「国立教育政策研究所」との連携もあげられています。ここでは、「新教育システム開発プログラム」として、足立区と教育産業の提携のもと、足立区の二つの小学校を使って研究が行われています。どのようなことが行われているかというと、教育基本計画で行おうとしていることを、実験的に二つの小学校で行っているのです。そこに国立教育研究所の人が入り込んで、基本計画の実施を徹底するのです。国の直轄による研究の対象となっているのです。
足立区の教育行政についてですが、区教委の独自性は否定され、ほとんどものをいえない状態になっています。指導室長も同様です。区の教育政策決定に関しては、「国から足立区、学校」という形になっています。区議会も、教育について発言する状況ではありません。ほとんどの教育施策は、区議会への「報告事項」にすぎない扱いになっています。
学力テストと結果の公表の問題ですが、区をあげて推進されています。冬休み中も学力テストを受ける学年は、膨大な量の宿題が出される状況です。夏休み明けには、学力テストの「過去問」までやらせることになっているのです。4月下旬には足立区一斉学力テストが行われるのですが、これが終わるまでは新学年の教育内容に入らず、学力テスト対策を行うという状況もあります。そういったたぐいの問題はもっといっぱいあります。点数を取れない子どもにテストを受けさせないということも行われているようです。
学力向上の重点校になっている学校は、教員にもしわ寄せが来て、休職者続出という状況もあります。職場アンケートの結果では、「テスト対策ばかりで普通の授業が行えない」とう声まであるのです。子どもにストレスがたまってきている状況も深刻です。
学校選択制度が導入されて5年になりますが、学力テスト結果の公表が、「競争」に拍車をかけているという状況です。それにより学校間の格差が広がり、教育困難校は問題が拡大しています。また、成果を上げている学校も生徒の増加により特別教室がなくなるなど、悪影響が出ています。これらにより、PTA等からも学校選択制度への疑問が出ています。
足立区は就学援助率が42パーセントにも達しています。生活保護世帯とほぼ同様の収入しかない世帯がそれだけあるということです。都立高校に入れなければ全日制への進学をあきらめなくてはならない子ども、給食費等が払えない子どもも多くいるのです。そのような子どもたちを必死でサポートしている教員たちに大きなしわ寄せが来ています。足立区では、三年連続で、教員の在職中の死亡が5人にも達しているのです。これには、「2学期制」の導入も一因になっているかもしれません。
このような状況の中で、今まで蓄積できた「教育力」がなくなり、学校が混乱しているのです。現場と校長・主幹等との議論がかみ合わない状況もあります。これからは、親と一緒になって、子どもと直接かかわる者から動きを起こしていかなければならないと思っています。
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