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少年法「改正」法案の問題点
 
斎藤義房
(日弁連子どもの権利委員会・少年法「改正」問題緊急対策チーム座長/弁護士)
 
 
[本格審議は今秋以降に]
 
 2005年3月に国会に上程された少年法「改正」法案は、同年8月8日の衆議院解散で廃案となりましたが、2006年2月24日に再上程されました。しかし、日弁連や市民団体が反対の声を上げたことと、先行した「共謀罪」法案の衆議院法務委員会での審議が紛糾したことから、少年法「改正」法案の審議は今秋の臨時国会に引き継がれました。
 
[法案の内容]
 
 今回の法案の内容は、@14歳未満で刑罰法規に触れる行為をした少年や「将来犯罪をおかすおそれの疑いのある少年」に対する警察官の調査権限の拡大・強化、A14歳未満の少年も少年院に入れる、B保護観察中の遵守事項を守らない少年を少年院に入れる、C重大な事件をおかした少年に弁護士付添人が選任されていない場合に、国が弁護士を付ける、などというものです。
 日弁連は、Cの国選付添人制度の導入については基本的に賛成していますが、その余の@〜Bについては、いずれも大きな問題があり、反対しています。
 
[法案の問題点]
 
1.14歳未満で刑罰法規に触れる行為をした少年に対する警察の調査権限の付与
 (1) 14歳未満で刑罰法規に触れる行為をした少年(触法少年)について、警察が聴き取り調査をするのがふさわしいとは言えません。14歳未満で重大事件をおこした子どもの多くは虐待やいじめを受けていたり、複雑な生育歴を有しています。そのような子どもからの聴き取りは、児童相談所が福祉的・教育的な観点から丁寧に行ってこそ、非行の背景を探り出すことができるのです。
 佐世保事件の被害者のお父さんの手記が、2005年6月1日の新聞に掲載されています。その手記でも、「事件直後の警察の事情聴取は綿密だったが、犯罪行為の立証が中心であった。行為に至る背景を引き出さなければ真の姿は見えない。そのためには、事件直後の適切なカウンセリングが重要であって、児童相談所にはその機能が求められている。」と指摘しています。
 (2) 弁護士の立場からは、警察が幼い少年に対して不適切な取調べを行い、虚偽の自白をさせて冤罪を生み出すおそれを強調したいのです。警察の取調べは、少年であっても、保護者や弁護士の立ち会いがないままに密室で行われています。大人ですら警察の強引な取調べにより、やってもいないことをやったと自白してしまうことがあります。
 死刑再審無罪事件を思い出して下さい。少年の場合は大人以上に萎縮し、取調官に迎合して、虚偽の自白をしてしまう傾向があります。14歳未満の少年では、なおさらです。
また、日弁連は、少年事件については警察の取調べに弁護士などを立会わせ、ビデオ録画をして検証できるようにすべきだと主張しています。その制度がないままに警察の調査権限を14歳未満の少年についてまで拡大することは大問題であり、むしろ事案の真相解明が遠のいてしまいます。
 
2.「ぐ犯少年である疑いのある者」に対する警察の調査権限の付与
 
  ぐ犯少年とは、少年法3条1項3号に定める将来犯罪をおかすおそれのある少年ですが、その範囲がとても曖昧で、警察による人権侵害の危険があります。今回の法案は、その要件をさらに緩めて、警察官が「ぐ犯少年である疑いのある者」を発見した場合に、調査することができるとしています。つまり、「犯罪をおかすおそれの疑い」です。これでは、警察の権限行使に歯止めが無いと言えるでしょう。親や学校が「この子は、警察の世話になる様な子どもではない」と思っているのに、警察官の考え一つで、子どもたちが警察の調査の対象となってしまいます。
 調査の内容としては、子どもに限らず、保護者や参考人を呼び出して質問できるようになります。さらに、学校や様々な団体に対して子どもの情報の報告を求めることができるようになります。学校から警察への情報提供は、学校と子どもとの信頼関係の破壊につながる大問題を含んでいます。
 また、警察は少年を児童相談所や家庭裁判所の手続にのせるかどうかの判断権を持つことになりますから、警察がいつまでも少年を手元において監視を続けることもできるようになります。まさに、警察主導の監視社会化です。
 
3.14歳未満の少年の少年院送致
 
 法務省は、14歳未満の少年にも処遇選択の幅を広げるのだと説明をしています。しかし、長崎幼児殺害事件を受けて出てきた今回の法案策定の経緯を見ると、重大な事件を犯した少年を児童自立支援施設に入れるのでは甘すぎるという考え方が浮き出ています。その結果、重大事件を犯した少年は、事件の重大性ゆえに少年院に収容されるという危険性が高いと言えるでしょう。小学生も少年院送致の対象です。
 少年院は、一般社会とは異なる集団規律により、少年に規範を順守する精神を育てることを目的としています。しかし、とりわけ重大な事件を犯すに至った触法少年ほど被虐待体験や発達障害をかかえていることが多く、人格形成が未熟で対人関係を築く能力に欠けており、規範を理解して受け容れるところまで育っていないことが多いのです。
 ですから、再非行防止のためには、まずは温かい疑似家庭の自立支援施設で「育て直し」をすることが必要です。なるべく一般社会に近い形での、親代わりの福祉施設の職員や同年代の児童との関わりなくして、少年を更生させることはできません。成育歴の中で自分自身が傷ついた体験を持っている少年は、自らが一人の人格として大切にされることを体験して初めて、他者の大切さを知り、贖罪の気持ちを持てるようになるのです。
 
4.保護観察中の少年の遵守事項違反を理由とする少年院送致
  法務省は、保護観察中の少年が保護司のところに面接に来なくて大変苦労しているからと説明しています。しかし、現状の対応策として、少年院に収容する新たな制度が必要かどうかが問題です。現行の犯罪者予防更生法42条でも、保護観察中の少年がぐ犯、すなわち罪を犯す恐れがある段階に至った場合には、家庭裁判所に通告して少年院に送致するという制度があります。
 なぜ、その制度では足りないのか、全く説明がありません。問題は、現行制度を適切に運用できない程、保護観察官が不足していることです。
 また、ぐ犯に至らない遵守事項違反、例えば学校に行くとか保護司のもとを月1回訪れるというような遵守事項に違反したことを理由にして少年院送致にすることは、あまりにもバランスを失するのではないでしょうか。
 このような制度の導入は、遵守事項を守らないと少年院に入れるぞという「脅し」によって保護観察を確保しようとするものであり、信頼関係を基礎に少年の改善更生に取り組むという保護観察制度の真髄を変質させてしまうでしょう。
 
   [いま求められていること]
 
1.日弁連は、2001年に、非行少年とその保護者、事件を担当した付添人弁護士に対する聴き取り調査を全国で実施しました。あわせて大阪と奈良の普通高校2年生に対するアンケート調査を実施し、非行少年の声との対照を行いました。
 その結果、家庭と非行との関係では、非行少年群に虐待を受けたという割合が多く認められ、非行少年のうちでも2回以上家庭裁判所に送られた少年に被虐待経験の割合がより高く認められました。
 学校と非行との関係では、「学業成績」および「遅刻・欠席などの学校離脱傾向」と非行の関連性が明確になりました。「分かる授業」を保障することや「努力したら成績評価が上がった」という喜びを体験させることなどが、非行防止の観点から重要で有効であることが明らかになっています。
 また、非行を起こした子を持つ親自身が、子育てのすべを見いだせず、悩み、苦しんでいる事例が多くあり、学校、児童相談所、福祉事務所などに何度も相談に出向いたが適切な対応をしてもらえなかったとの親からの訴えも少なからずありました。
 子どもや親に対して福祉的・教育的支援を早期に手厚くすることこそ、子どもの非行防止につながるのです。(日弁連編「検証少年犯罪」日本評論社、2002年)
 
2.このことは、子どもの権利条約などの国際法規も指摘しています。「少年非行防止に関する国連ガイドライン」は、基本原則として「少年非行防止が成功するためには、社会全体が幼児期から少年の人権を尊重および伸長しながら、青年期の調和のとれた発達を確保するため努力する必要がある。」「この指針の実施にあたっては、国の制度に従って、幼児期からの福祉が非行防止計画の中心とされるべきである。」「社会的統制の公的機関(警察など)は、最後の手段としてのみ用いるべきである。」としています。
 そして、国連子どもの権利委員会(CRC)は、2004年1月、日本政府に対し、2000年の少年法「改正」で少年の刑罰適用年齢を16歳から14歳に引き下げたことなどに懸念を表明し、問題行動を伴う子どもを犯罪者として取り扱わないようにすることを勧告しています。今回の法案は、CRCの見解と真っ向から対立しています。
 
3.いま、わが国の少年非行防止および非行少年の立ち直り支援の基本施策は、重大な転換点に立っています。
 児童相談所は虐待相談や非行相談で多忙をきわめているのに、全国で児童福祉司が約2,000人しか配置されていません。教育の現場からは、30人以下学級の実現を求める切実な声が上がっていますが、逆に教員数の削減が進められようとしています。
 他方で、警察は、「地方警察官1万人増員3カ年計画」に基づき、2002年からの3年間で少年警察部門だけでも976人増員配置されています。全国の警察職員は、約24万人です。警察予算の急増と対比して、福祉・教育予算が貧困であることは明らかです。
 警察庁「少年非行防止法制に関する研究会」は、2004年12月、「少年非行防止法制の在り方について(提言)」を発表し、少年補導法(仮称)の制定を求めました。これを受けて、警察庁は同法案の策定作業に入っています。これは、「不良行為少年」として年間130万人以上「補導」している警察の活動を法律で公認しようとするものです。「ぐ犯の疑い」で警察官の調査を認めるという今回の少年法「改正」法案も、警察庁の動きと連動しています。
 今回の法案は、本来最も有効な非行防止施策である福祉と教育による子どもの成長支援を充実させないまま、警察主導に傾斜している非行防止施策の再検討を放棄し、国の少年非行防止施策の基本理念を福祉・教育による援助・支援型から警察中心の取締り・監視型へと転換し固定化させるものです。
 そもそも、治安維持を目的の第一に掲げる警察の権限を拡げ、広範な子どもを「非行予備軍」として不信の目で監視することが少年非行の防止につながるという発想に根本的な問題があります。今回の法案は、子どもを見守る大人の目を疑いのまなざしに変えるものと言えます。不信の目でみられている子どもが、不信の目で見ている大人や社会を信頼することはありません。
 このような立法が続くならば、追いつめられる子どもたちは増大し、プライベートな領域に警察が介入する息苦しい警察国家に変貌するでしょう。
 今秋以降の本格審議に向けて、全国各地で反対の声をあげましょう。 
 
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