|
トップダウンの学校改革―品川区の「教育改革」を問う
T・K(元教員)
|
品川区は、学校選択制、外部評価、小中一貫教育などの「教育改革」を進めています。『日本の論点2004年版』に、品川区の若月教育長の論文「小中一貫校の構想は、変われない公立学校を変える経営論的試みである」が掲載されていますが、若月氏は、この論文で「小中一貫校も学校選択制と同様の発想で構想されたものであり、公立学校の体質を変えるための一つの制度、仕組みである」としています。
区民や現場教師の意向などを全く無視し、教育長の教育観にそって「公立学校の体質をかえるための」文教政策が、トップダウン方式ですすめられています。教育「特区」になったからという理由で、若月氏は「今の学習指導要領の足らざる部分を各教科・領域でもう一度洗い直し、品川区の小中一貫校における学習指導要領を作る」と述べています(『月刊プリンシパル』04年9月号)。
そして、「6・3制」を「4・2・3」制に切り替え、一貫教育として小中をつなげようとしていますが、このこと自体に教育学的根拠などはなく、「小中一貫教育」論は、若月教育長の独断的な教育観に基づいたものなのです。
●おかしな「市民科」という教科
そして、区独自の小中一貫教育の特色を打ち出すために「市民科」という新しい教科まで準備しています。この新教科は、その内容においても多くの問題を孕んでいるものですが、私が大変おかしいと感じたのは、この新教科が作られる上で、「道徳の時間」(年間35時間)と「特別活動」(学級活動、年間35時間)とが融合されていることです(5年生以上は、「総合的な学習の時間」の一部も統合)。若月氏は「特別活動(学級活動)などやらないほうがいい」という独特の教育観の持ち主のようですが(教育学者の梶田叡一氏との対談)、そうした個人的な教育論を公教育の世界で具体化し、市民科という新しい教科をつくろうとしているのです。
これまでの教育課程にあった学級活動の時間がなくなり、道徳の時間と統合され、9年間、道徳学習やアサーションとかディベートなどのトレーニング、クリティカルシンキング等のスキル(技能)を学ぶ時間、あるいはボランティア活動の時間等に切り替えられているのです。
3年B組金八先生というテレビ番組がありますが、あのドラマの学校における主な舞台は、学級活動(特別活動)の時間だといえます。つまり、生徒と教師との関係性を具体的につくりうる時間が「学級活動」の時間なのです。そして、品川区の小中一貫教育構想は、そうした時間を全面的になくし、道徳学習と産業構造の変化にみあったスキル(技能)学習の時間などに切り替えていく計画なのです。そうした中で、小中学生が主人公になった学級活動をおこなうことができなくなり、教師が、子どもの声(思いや願い)に応答しながらケアしていく関係性を形成することも、今以上にむずかしくなってしまうのではないでしょうか。
若月氏は、市民科について「一口で言えばこれからの日本人として必要な教養教育」と説明していますが(前掲『月刊プリンシパル』誌)、市民科という教科は、若月氏ら特定の人々が選んだ「21世紀に生きる日本人に必要な教養」を育成するプログラムにほかなりません。例えば、市民科の中に「仁、義、忠、孝、礼、信」などの学習項目がある点がよく問題にされています。しかし、それ以上に問題なのは、若月氏が「今の社会の変化や新しい知識や技能、ノウハウといったものに学校教育が追いついていけるかといえば必ずしもそういう状況にはない」とし、企業のリソースの開発と比較しながら「遅れた意識をもつ学校に対して働きかけを行うことは教育委員会の務め」と思い込んでいることです。そして、ビジネス社会で成功するための社会力を身につけさせることをたいへん重視し、企業と一緒に学校をつくっていくという発想で市民科教育が計画されていることです(『JC品川ニューズ』04年度、VOL1)。
実際に、この市民科カリキュラム作成委員会の責任者には、ベネッセ教育研究所という民間企業の役員が就任しています。つまり、民間の教育産業の役員が中心になって公教育の教育課程を開発する構図ができてしまっているのです。
また、従来の教育委員会なら、表面的にではあれ、現場教師への"敬意"がありました。しかし、品川区では、そうした現場教師への形式的な"敬意"などもありません。若月氏は、品川の教育改革について「本当に足を引っ張っているのは教員です。ほかへ異動したいという教師も多い。でも、そういう教師は異動してもらって構わない」「それで本当にやる気のある教師に品川区に来てもらえれば、教師の質は上がっていく」とあからさまに述べているのです(「学びの場コム」03年5月14日インタビュー)。
品川区のように、トップダウン方式で文教政策が持ち込まれる状況は、教育基本法「改正」の先取りにほかなりません。教育行政が、直接的に教育課程(カリキュラム)を作成しており、現場教師はそれらをこなすだけの存在に変えられようとしているのです(2005年1月)。
- トップダウン:企業経営などで、意思決定は社長・会長がして、上位から下位へ命令が伝達され,社員に従わせる管理方式。
- アサーション:相手の気持ちを害することなく自己主張を伝える技能
- クリティカルシンキング:「ものの考え方」自体を訓練して身につけ活用すること。
- リソース:利用できるハードウエアやソフトウエアのこと。資源。
|
| ▲上へ |
|