|
2011年5月10日
|
| 東日本大震災と福島原発人災に際してのDCI日本アピール No.3 |
今ある生活と個々の家庭の信条を最大限尊重しつつ、
子どもの被曝線量を最小限にする措置を求める!
― 子どもの被曝限度放射線量基準をめぐって ―
|
1 はじめに
4月19日に、文科省初等中等局長を含む文科省四局長名で、本年8月末までは、子ども
の被曝限度放射線量を年間20mSv、1時間3.8μSvとし、体の中心に当たる高さでこの線量を超える放射線が測定される場合には、学校での屋外活動を1時間に制限する通知が出されました。この通知は、国際放射線防護委員会(ICRP)が採用している、放射線源を制御できない緊急事態における被曝限度放射線量を年間20mSv〜100mSvとするという基準のうち、最小の20mSvを子どもについて選択したものと思われます。
この通知をめぐっては、原子力安全委員会による十分な検討を経たものであるのか、国
際放射線防護委員会(ICRP)の定めた基準を適切に適用したものであるのか、そして、この基準が子どもの生命と健康を守るのに適切なものであるのかをめぐって、批判や議論が展開されているのは周知のとおりです。
DCI日本としても、会員間の議論を可能な限り組織し、また、代表・事務局長が急遽福
島に赴き、放射線測定、関係団体・個人からのヒアリング・協議も行なうなどして、この問題を検討してきました。その結論を公表します。
2 守られるべき7つの原則
どの程度の低線量放射線に、どれくらいの期間被爆すると、どれくらいの確率で、治療不可能な重大な影響が、子どもを含む人間の生命と健康に発生するのかについての検証可能なデータがない状況においては、子どもを放射線から守る基準を設定するにあたって次の7つの原則が守られるべきです。
第1は、福島の地域住民自身が、自らの手によって収集された放射線量に関する情報、いかなる個人・組織によって収集されたものであれ、既に収集されているすべての情報、そして、低線量被曝の影響に関するすべての情報に基づいて、安全基準についての合意を形成すること。
第2は、合意形成に当たっては、子どもが放射線に関して持っている疑問や不安だけでなく、これまでおとなから教わってきたことと現実とのズレについて持っている戸惑いや不信も、子どもに自由に表明させ、おとなが誠実に応答すること。
第3は、安全基準に関する合意は、保育園・幼稚園、学校、学童保育、児童公園、運動場など、子どもがそこで生活し、または、利用するすべての施設について形成すること。
第4は、合意された安全基準の運用にあたっては、今ある生活のすべての側面を最大限尊重すること。
第5は、今回の通知によって採用された基準、そして、将来において合意される基準の運用に当たっては、「被曝限度放射線量まで被曝させても良い」という"許容"限度として運用するのではなく、また、「それに届きさえしなければ何もしない」という姿勢をとるのでもなく、今の生活を最大限尊重しながら、被曝放射線量を最大限まで減らすことのできる措置を可能な限り取り続けること。
第6は、緊急事態の収束前にある現段階においても、緊急事態の収束に向けて進捗している場合には、より厳格な基準へと、随時、修正する必要があること。
第7は、合意された基準よりも厳格な安全基準を求めるがゆえに、その基準に従えないと考える子どもと親については、その信条を最大限尊重し、基準の適用を除外し、かつ、適用除外を理由にしていかなる不利益も与えないこと。
3 現在ある問題
以上の7つの原則に照らして見た場合、福島県においては現在、次のような問題があります。
(1) 福島県民が自らの手で放射能汚染の実態を調査するための手段が国・県・市によって提供されていないばかりか、自ら測定したデータを広く伝えることを妨げる動きさえあること。教育機関および子どもが利用する施設が、自らの手で、放射線の実態を測定するための測定機器が、提供されていないうえ、電力会社の社員によって測定されたデータも、「守秘義務」を盾にして、当の教育機関等に直接提供されていません。また、たまたま学校にあった計測機器を用いて学校が測定した結果をインターネットなどに掲載すると、データ公表は県庁または文科省だけができるとして、その公表にストップをかける動きがあります。
(2) 被曝限度照射線量に関する基準が、そこまでは被曝させてもかまわないという"許容"
限度基準として運用されていること。伊達市内の2校を除くすべての学校での放射線量が、毎時3.8μSvを下回ったことから、屋外活動時間に関する規制をはずし、無制限で屋外での部活動を行なうことが予定されています。活動時間、活動内容と条件(例えば、低い姿勢をとりやすく、泥まみれになりやすいラグビーを、表土除去を行なっていない校庭で長時間にわたって、連日行なう)によっては、年間20mSvという被曝量に近づくことは必至ですし、それを超える危険性もあります。
(3) 今ある生活を可能な限り安全なものとするために、生活の質にほとんど影響を与えることなく、しかも、経費がそれほどかからない方法があるにもかかわらず、それがほとんど取られていないこと。軽視できないほど放射能に汚染された校庭、園庭や公園の土については、その表面数センチを除去すれば放射線は激減します。また、アスファルト道路の表面に残っている放射線も、水で洗い流すことによって大幅に除染できます。しかし、これらの措置が取られているのはわずかに留まります。
(4)「安心して外で思いっきり遊びたい」「安心して思いっきり屋外で部活動をしたい」と
いう日に日に強くなっている子どもの要求も、放射線量が都内と同じ程度に低い地域にある ―― 現に福島市内にもあるのですが ―― 運動場を利用すればすぐにでも実現できるにもかかわらず、それを実現するための計画作りや、移動手段の確保はまだ行なわれていないこと。
(5) 年間被爆限度放射線量20mSvという現在の基準をより厳格なものにするための動きがまったく存在していないこと。福島第一原発3号炉が水素爆発を起こした翌日の3月15日には福島市内の放射線量は激増し、最高値を記録しました。それと比べると現在の放射線量は大きく減っています。また、非常事態の収束に向けて前進しています。これらを考慮すると、通知に示された被曝限度線量をより厳格なものへと修正する時期にあると考えられます。
(6)「現在の被曝限度放射線量基準の下での生活では、子どもの健康に高い確率で害が及ぶ」と考える親と子どもの信条が尊重されていないこと。現在の基準のもとで部活を屋外で1時間行なう際に、学校が個々の親から承諾を得るという方針への対応も、学校ごとにばらばらです。また、2校を除くすべての学校で1時間という屋外活動に関する規制をはずした後には、親からの承諾を得ることは予定されていません。これでは、被曝限度放射線量について不安を持つ親や子どもは、屋外での部活や体育への参加を強要されてしまいます。
(7)現在の放射線量に不安を覚え、自主的にそれから逃れた家庭に不利益が及んでいること。現在の量の放射線が、子どもの生命と健康に与える悪影響を不安に思い、汚染地域外へ子どもを移動させ、その地域の小学校に転校させる親も多くいます。しかし、罹災証明が出ないために、他県・市町村が提供する被災者用住宅に入居できないなど、不利益を受けています。
4 関係行政機関への要求
DCI日本は、以上の問題を解決すべく、関係行政機関に対して以下のことを要求します。
(1)政府への要求
1. 内閣総理大臣は、現在の基準が、被曝してもかまわない放射線量を意味しているのではなく、この基準のもとにあってもなお、関係機関は、子どもの実際の被曝放射線量を減少させるための措置を取り続ける義務を有することを宣言すること。
2. 内閣総理大臣は、国内外の専門機関から低放射線が健康に及ぼす被害に関するデータを収集し、市民、特に、福島県に在住する市民に提供すること。また、福島原発事故後の各地における放射線量の推移に関するデータの収集体制を強化し、収集されたデータを、政府および米軍が既に収集した放射線量に関するすべてのデータとともに、市民、特に、福島県に在住する市民に提供すること。
3. 原子力安全委員会、原子力災害対策本部、および文科省は、4月19日の通知に示された被曝限度線量基準に関して市民社会・国際社会から示された数々の疑問に説明を尽くす
こと。特に、文科省は、この基準を採用するに当たって、独自にどのような判断をした
のかを説明すること。
4. 原子力災害対策本部は、原子力安全委員会に対して、非常事態の推移に応じて被曝限度放射線量に関する基準をどのようにより厳格なものにしていくべきなのかに関する助
言をすぐに求めること。原子力安全委員会は、その専門的知見に基づく見解を、適宜、
明らかにすること。
5. 厚労省は、放射線汚染地域における子どもの生命と健康を守るために求められるさまざ
まな基準を明らかにすると同時に、汚染除去のために取りうる措置を明らかにすること。
6. 文科省は、各学校における放射線汚染の実態把握と、独自の安全基準に関する合意形成のための努力を徹底的に援助すること。それを妨げる措置をすべて撤回すること。
7. 文科省は、原子力災害対策本部と原子力安全委員会の見解、および、それ自身の調査に基づいて、より厳格な基準を、事態の進行に応じて、適宜、設定すること。
(2)福島県教育委員会・福島市教育委員会への要求
8. 放射線計測機器をすぐに学校等の教育施設と、保育園・学童保育等の児童福祉施設に複数台配布し、各施設が独自に放射線量を測定できるようにし、データ公表の自由を認めるとともに、各学校において、子どもの要求に耳を傾けながら、教職員、指導員と保護者が一緒になって独自の安全基準を作成することを徹底的に援助すること。
9. 子どもの安全なところで、からだを思いっきり動かしたいという要求に応えるために、
汚染度の低い地域にある運動場の利用についての計画を立て、移動手段を確保すること。
10. 校庭、園庭、公園の汚染土壌の表面除去および学校内とその周りのアスファルト除染を直ちに開始すること。
11. 学校、保育園、学童保育等において子どもの屋外活動を行なう場合には、親と子どもか
らの承諾を個別に取り、承諾しない子どもに一切不利益が及ばないようにすること。
(3)福島県・福島市への要求
12. 被曝をおそれて、自らの判断に基づいて、避難した者に、罹災証明を発行すること。
13. 地域住民が自らの手で安全基準を見直し、設定できる住民参加機関を速やかに設けること。
14. すべての市民(子ども、マイノリティー、お年寄り等を含む)が理解できる方法で情報
を提供し、対策を講じること。
5 最後に ―― 将来における健康被害を最小限化し、発生した健康被害を補償すること
放射線に被曝することが生命・健康に悪影響を与えることは良く知られていることです。被曝を最大限減少させるための措置を取ったとしても、健康被害の可能性を排除することはできません。このため、将来における健康被害を最小限化するための措置と、被害が明らかとなった時の補償が必要となることは言うまでもありません。
そのような措置と補償の具体的なあり方を明らかにする準備はまだできていません。これら二つのことも重大な政策課題となりますが、現段階では確認するにとどめ、それへの応答は近い将来に行ないたいと思います。
|
| ▲上へ |
|